2023年11月16日木曜日

こころ 22 -排他的・択一

 Kの口にした「覚悟」とは何か?

①お嬢さんを諦める「覚悟」

②お嬢さんに進む「覚悟」

③自己所決する「覚悟」


 どれかと考える前に確認しておく。

 上の三つは、基本的に排他的な選択肢だ。「自殺の動機」のように、複数選択ができない。

 ①でも②でもあるような「覚悟」では何のことかわからない。

 ①でも③でもある、という解釈は、実は世の国語授業では曖昧に許容されている。つまりKは①の意味で答えつつ、そこに③の意味を重ねていると考えるのだ。

 だがこのように考えてはならない。なぜか?


 「お嬢さんを諦める」なら、Kは死ぬ理由がなくなるはずだからだ。

 逆に、「自殺する」のは、自分の未練を断ち切るためなのだから、その「覚悟」を持っているということは、「諦める」ことができていないということに他ならない。

 つまり「諦める」と「自殺する」は併存しない。


 いや、お嬢さんを諦めるとしても、そもそもお嬢さんに心惹かれたことがすでに許せないのだ、したがってお嬢さんは諦めるが、死ぬ理由は依然としてあるのだ、そう主張する者がいる。

 だが問題はKの自殺の動機が何かではなく、この「覚悟」が何を意味しているかだ。Kがどちらの意味でもあるように「覚悟」と言ったと考える必然性はない。

 では、「自殺する」といった意味合いがあるとしてもそれはまだK自身にとっても曖昧なものだと考え、表層的には①であり、そこに③の意味も含意されていると考えることはできないか。

 これもできない。「覚悟」という言葉の強さに釣り合わないからだ。

 「覚悟」とはその決着点なり方向性なりが曖昧なまま使える言葉ではない。「諦める覚悟」でもあり、ぼんやりと「自殺する覚悟」でもある、などという心理を「覚悟」とは呼ばない。


 ただし以前の授業で生徒から、②と③の組合わせたアイデアが提示された。それは「進むが、駄目ならば(諦めるのではなく)自己所決する覚悟」だ。なるほど「進みつつ自殺する」では意味を成さないが、時間に沿って直列するのならば可能なのだ。そしてそらは、単に②や③とは明らかに違う「覚悟」ではある。

 論理的には可能だが、そういう意味でKが言ったのだと考えるかどうか別問題。

 さて、どれか?


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