次に、Kの自殺の動機について考える。
最初に述べたとおり、これはいわば「下人はなぜ引剥ぎをしたか?」のような、「こころ」における最大の問いだ。だからこれは年末まで考え続けることになる問いということになる(たぶんこれを論題に小論文を書いてもらう)。
だが、現状でこれはそれほど「謎」とも感じられていないかもしれない。それなりにわかる気がする。ここがわからなかったら、小説全体がわからないと感じられてしまうはずだが、「こころ」は一般に、それほど「わからない」小説とは思われていない。
だから、現状で、まずは出し合ってみる。
いろいろに表現は可能だろうが、似たような内容であると認められるものをまとめていく。
それでも別の要素として分けるのが妥当だと考えられるのは、何項目になるか。
それらの要素のうち、相容れない項目はどれとどれか? 「Kはなぜ自殺したか」をめぐって対立する意見を明らかにしよう。
さて、挙げられた動機は、次の項目のいずれかにあてはまるだろうか?
- ①失恋
- ②友の裏切り
- ③自分への絶望
- ④「私」に対する復讐
上の4項目のいずれにもあてはまらない見解を5番目以降に加えよう。
例えば過去の生徒からは「自分への罰」という「動機」が提出された。何についての罰? と訊くと、「精進の道を逸れたこと」という。それならば③と同じだ。
だが、同じ「罰」という言い方で「友人やお嬢さんの気持ちに気付かなかったことに対する自己処罰」というような意見も出る。
両者は違う。「道を逸れたこと」なら恋心を自覚して以降ずっとKの裡にあった可能性があるが、「気持ちに気付かなかった」なら自殺の直前、二日以内にはじめて生じた動機だ。
そうするとそれは自分を恥じる気持ち、か? 気づかなかった相手に申し訳ない気持ち、か? それがKを死に追いやったのか?
あるいは、「行動できなかった自分への絶望」というアイデアも出た。お嬢さんが好きなのに手を拱いていて何もできなかった後悔、という意味だ。これは③とは全く違う。
今年度はここに時間をかけなかったせいもあるが、こうしたバリエーションはほとんど挙がらなかった。ただA組Sさんの「『私』につきはなされたから」という動機は①~④のいずれにもあてはまらない心理として検討の対象とした。
そのようにして提出された「動機」の解釈があれば選択肢として追加する。
これらは排他的にどれかであると考える必要はない。このうちのいくつかが複合的に働いているのかもしれない。
では上の項目のうち、どれがどのくらいの割合でKを死に追いやったと考えるのか。合計が10になる整数比で表してみよう。
例えば①と②と④が、2:5:3くらいの割合だ、などとKの「動機」としての重みを量るのだ。あるいはどれか一つが10でもいい。
それぞれの動機の把握は、どのような「こころ」の読みに結びつくか?
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