2023年12月6日水曜日

こころ 40 -エピソードの「機能・働き」

 ここで、別の角度から考える。

 いったん問2を措いて、問1の「エピソードの意味」を「このエピソードの機能・働き・役割・必要性」と考えてみる。

 エピソードは、大きく言えば主題を形成するために置かれているのだが、限定的に言えば、まずは物語を展開させるために置かれている。

 それを考えるために、こう問う。

 このエピソードの前後で何が変化したか?


 既習事項だ。「私」はこのエピソードを挟んで、Kの口にした「覚悟」の意味をほとんど反対方向に解釈しなおしたのだ。

 この変化から、このエピソードの「機能」を説明してみよう。


 「私」がKの「覚悟」の意味を考え直した直接的な契機は、翌日Kに問い質した際、Kが「そうではないと強い調子で言い切」ったことだ(これも既習)。

 こうした態度から、Kの「果断に富んだ性格」を思い出した「私」は、上野公園の散歩の際にKが口にした「覚悟」を、当初の「お嬢さんを諦める『覚悟』」とは反対の「お嬢さんに進んでいく『覚悟』」だと思い込んでしまう。

 直接的な契機は確かにこの「強い調子」だが、その背景には、そもそも「覚悟」を口にした時のKの「独り言のよう」「夢の中の言葉のよう」という様子が微かな懸念として「私」の中で引っかかっており、それが宵の「世間話をわざと彼にしむけ」る行動につながり、さらにその疑心がこの晩の謎めいたKの行為によって増幅した、という論理的必然性につながっている。

 そうして「覚悟」の解釈を変更して、焦った「私」は、奥さんに談判を切り出す。

 こうした展開の導因としてこのKの謎めいた行動があるのだから、このエピソードは、Kの心理が「私」にとって謎めいていることによって「私」の疑心暗鬼を誘い、「私」に悲劇的とも言える行動を起こさせる誘因となる、といった、物語を展開させる推進力となる「機能」があるのだ、と説明できる。

 これがこのエピソードの「意味」だ。


 こうした「エピソードの意味」に整合的な「Kの意図」は何か?

 敢えて言うならば、Kの言葉通り「特別な意味はない」だ。

 Kには特別な意図はないのに、「私」が考えすぎてしまっているのだという解釈は、心のすれ違いを描いた「こころ」という作品の基本的な構図にふさわしい。

 この解釈は①「Kの声が落ち着いていた」にも整合的だ。

 「落ち着いていたくらいでした」という描写は、反動として「落ち着いている」ことに対する不審を読者に抱かせる。「落ち着いている」はずはない、おかしい、と思わせるのだ。

 だが「特に意味はない」ならばKの声に特別の響きがなくてもいいのだし、②「近頃は熟睡できるのか」も、「意味がない」のならば考える必要がない。


仮説3

問① 物語を展開させるはたらきをする。

問② 特別な意味はない。


 これでこの問題に結論が出たことになるだろうか?


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