下人はなぜ引剥ぎをしたか?
これは「正義」の引力と「悪」の抗力の釣り合いが変化したことによる。
それを引き起こしたのは老婆の「平凡」な答えだ。下人は老婆の長い言い訳を聞いたから引剥ぎをしたのではなく、端的に言えば平凡な引剥ぎの理由を聞いたから引剥ぎをしたのだ(まだ何のことかはわからないだろうが、そう結論できるのだ)。
その時下人の裡に起こった変化を捉えるのに有効なのは、「心理の推移」の分析の際に行った、二つの「憎悪」の比較だ。その際の番号に従って①「憎悪」と③「憎悪」と呼ぼう。
①は「一般化した対象に向けた熱い憎悪」、③は「限定された対象に向けた冷たい憎悪」だと捉えられる。両者に共通しているのは「悪に対する憎悪」だということだ。ここで共通点を確認した伏線の理由が明らかになる。この時上記のバランスが変わったのは、すなわち「悪」に対する認識が変化したことと対応しているのだ。
①と③の相違を次のように整理する。
① としての悪に対する憎悪
③ としての悪に対する憎悪
また
① 的な悪に対する憎悪
③ 的な悪に対する憎悪
空欄に入る言葉は何か?
これは生徒が自ら考えつくような思考法ではない。
実は授業者もこのように問題設定をして思考したわけではなく、これはむしろ説明のために発想したものだ。それを最後の誘導に利用する。
この比較を可能にするために「憎悪」の共通点を「悪に対する憎悪」であると確認することが必要だったのだ。
先の相違点を、その対象の違いとして表現する言葉を探す。①③の空欄にはどんな言葉が充てられるか?
対義語としては「主観/客観」が思い浮かぶことが多い。
だが、①③のどちらにも「主観」「客観」が入りうるし、どちらでももっともらしい説明ができてしまう。つまりこの対比は有効ではない。
「絶対/相対」も挙がるが、この言葉でも論理がつながるとは言い難い。
①と③の比較では①「対象が一般化されている」、③「対象が老婆に限定されている」という表現を使った。ここから「一般/個別(限定)」も発想されるし、「抽象/具体」に置き換えることもできる。
この対比は悪くないが、ここから主題の把握までには距離がある。
さて、ギリギリのヒント。
①に入りうるのは「幻想」「虚像」「イメージ」などの言葉だ。
だがそれより適切な言葉がある。
先の「相違」が示す相違を、その対象の違いとして表現する言葉①③を探す。
大詰めだ。
下人はなぜ引剥ぎをしたのか?
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