「思考の誕生」「真実の百面相」「読む行為」三つの文章の対応を考えているところに、さらにもう一編を追加して考える。「読む行為」と同じ内田樹の、こちらは教科書所載の「物語るという欲望」。
この、最後に追加した「物語るという欲望」の、「物語る」という語をキーワードとして、4編を通観しよう。
読解のスキルとして「シンプルな文で論旨を切り取る」ことの有効性を説いた。
もう一つ、「言い換えの表現をマークする」ことも推奨したい。
キーワードとなる「物語る」は、文中でどのように変奏されているか?
次のような言い換えが見つかればOK。
- 脈絡づける
- 解釈する
- 橋を架ける(架橋する)
- 読み込む(書き込む)
同様に「何もないところ」の言い換えを探そう。
ひとまず「亀裂・断絶・飛躍」を指摘したい。だがそれ以外に、この文章特有の表現を一つ。
「反ー物語」がそうだと指摘できれば上出来。
これらが言い換えだというのは、シンプルな文にしたときに、相互に入れ替えが可能だということだ。例えば「物語は『何もないところ』から生まれる」という文は「物語は『断絶・亀裂』から生まれる」と言い換えてもいいということだ。
とはいえ、どの言葉を選ぶかによって、他の文章との相似性を把握するときに相性の良さに差はあるかもしれない。だから、こうした言い換えを場面によって自由に使いこなせる方が、論旨の共通性を捉えやすいとはいえる。
授業では「単純な文で言ってみる」「言い換えを探す」の他にさらに有効なスキルを二つ紹介した。
「何が否定されているかを考える」「対偶を考える」というテクニックだ。
例えば「人の能力とは他者との共鳴によって引き出される」という命題は「人の能力は個人が占有している」を否定している。これはつまり「~ではなく」の部分を考える(か、文中から見つける)ということだ。
これは昨年から繰り返しやってきた「対比」の考え方だ。否定されているものを考えることで、命題の意味が明瞭になる。
もう一つ「対偶」は、「~は~である」を「~でないものは~ではない」とか「~すると~する」を「~しないと~しない」と、同じ意味になるように言い換えてみようということだ。
「人の能力とは他者との共鳴によって引き出される」では「他人との共鳴に拠らずに既にあるものだけが能力ではない」くらいか。ちょっと捻ってるな。でもまあ、こうして表現を工夫しながら対偶を言うことで、命題の意味が明瞭になるのは、「対比」と同じだ。というか、腑に落ちる対偶をとろうとすることで、命題の意味がいやおうなく理解されるのだ。
試してみよう。読解のために有益だというだけでなく、説明の際にも、意味が明確にすることができる。
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