教科書に収録されている展開の中で起こるイベントは、それぞれ何曜日の出来事か?
本当はそう問うて後はたっぷり時間をとりたい。考察の方法と手がかりについて、自分で発見し、試行錯誤を重ね、そしてそれを話し合うことがもう意義深いし、楽しい。
とはいえそれをやっていると、この「曜日の特定」のくだりに数時間必要になる。残念ながら誘導して、みんなの進度を揃える。
曜日を特定するために、どんな情報が必要か?
本文で曜日が明示されているのはどこか?
137頁に、⑦「Kの自殺」が「土曜日の晩」であったという記述がある。曜日が明記されているのはここだけだ。
では、他の曜日を推定するための手がかりとなる記述は何か?
本文中に以下の5カ所、「日程=期間=時間的隔たり」を示す記述がある。
- 二日余り 137頁
- 五、六日たった後 136頁
- 二、三日の間 135頁
- 一週間の後 130頁
- 二日たっても三日たっても 130頁
これらはテキスト中にマークして、いつでも参照できるようにしておく。
これらの日程の記述を手がかりとして、明示された土曜日から遡りながら曜日を特定していく。
これがこの後の読解にどのような影響を及ぼすか?
一連の考察を通して得られる認識は、物語の展開に沿った登場人物の心理を読み取っていく上で、それを実感として想像したり議論の根拠としたりするために有益だ。
たとえば「私」の逡巡がどれだけの日時に渡るものなのか、沈黙に隠れたKの苦悩が何日に渡るものなのか、奥さんはなぜその日に話したのか、Kはなぜその日に自殺を決行したのか、実感として想像する上で、出来事間の「日程」とともに、我々の生活を律する「曜日」の感覚もまた重要な手がかりとなる。「週末」や「週明け」、「週の中頃」といった感覚は心理に影響する。
こうした、読解の前提を授業の最初期に教室で共有しておきたい。
といって、考察の結論にのみ意味があるということではない。
一連の考察を通して、テキスト中から必要な情報を探し出してそれを整合的に結びつけて、そこに生ずる意味を的確に捉えるという、読解の難しさと楽しさを、一緒に教室にいる人と味わってほしいとも思う。
考察結果は必ずしも一致しない。その時、異なる考察同士を比較し、その考察過程を再検討する必要が生ずる。自らの読みの根拠が問い直される。
そうして初めて、読解という行為の難しさが本当にわかるのだし、同時に、その豊穣さもまた、わかる。
こうしたことは一人で読んでいてもできない。授業という場があって初めて実現できることだ。
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