「舞姫」冒頭の一文が指し示しているのは、さしあたり船の燃料の積み込みが終わったということであり、それは「出航が近い」という事態を示している。
ということは?
一方、第1章で最終的に読者が把握しなければならない情報は何か、と考える。思考は方向を定めずに展開するばかりではなく、到達点を仮設してその間を架橋するように展開する。
1章で読者が把握しなければならない最も重要な内容はなにか?
だが「最も重要」という指定はあまりに曖昧だ。
さしあたって、語り手がドイツ帰りの船の中にいることと、強い悔恨に悩まされていることは確かに「重要」だ。
さらに今必要な「重要な内容」を確認するために、1章の段落構成に着目してみよう。
1章は形式段落で3段落構成であり、その1.2段落は同じ文で終わっている。「そうではない、これには別に理由がある」だ。そして3段落にはそれらと違って、本当の「理由」が書かれている。これら、3段階で語られるのは何の「理由」であり、それは何だと言っているのか?
日記が書けないでいる「理由」だ。それは心が動かなくなったから(第1段落)でもなく、自分の言うことが当てにならないから(第2段落)でもなく、悔恨が深いから、だ。
「日記が書けない」ことが1章で読み取るべき最も重要な内容だとして、これを当然その前後に前提と決着を求める。「書く」を活用させてごらん、という言い方でピンときた人が各クラスにいた。
「書けない」ことが問題になるからにはまず「書きたい」があるはずであり、第1章の終わりは「文に綴りてみん。」だ。つまり「書こう」で終わる。
「書きたい」理由は何か?
これは「書けない」理由と表裏一体だ。
つまり語り手はある「恨み(悔恨)」を消そうとして文章を書こうとしており、かつその「恨み」の深さに筆が進まないのだ。
そして1章の終わりでとうとう書き出すことを宣言する。
このことと冒頭の一文の間は、どのように架橋されるか?
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